母親が選んでくれた私だけの振袖

母親が選んでくれた私だけの振袖

着物に全く興味のなかった私は、自分の成人式が近づこうと何を着ようなどと全く何も気にしていませんでした。
しかし、私の母親は大の着物好き。自身はタンスいっぱいに着物を所有し、事あるごとに自前の着物を着て出かけて行くような母親でした。
ある時、「いいのを見つけた!とにかく見に来て!」と興奮気味に連れていかれたのが、近所にある個人経営の小さなリサイクルショップ。
何をそんなに興奮しているのかと思いつつ、とりあえずついて行くと、そこには、なんとも立派な振袖が飾られていました。
しかも、リサイクルショップなのにこれだけは新品とのこと。

なぜこんな所で新品の振袖が売られていたのか詳しいことはわかりませんが、とにかく着物に詳しい母親が見てもなかなかいい質のものだったらしいのです。
それなのにその振袖の価格は60000円。当時の私からしたら、60000円も大金だったので、「そんな高いのいらないよ!」と言って必死に断ったのですが
「こんないい振袖を60000円で、しかも新品で買えることなんか普通ない!これは絶対買っておいた方がいい!レンタルでもこんな値段のものはない!」と、
いつにも増して強気で勧めてくるのでした。私自身、着物に特にこだわりはありませんし、支払いは母親がしてくれるはずなので、
別にそこまで拒否する必要はなかったのですが…、実は、値段より何より気になったのが、その色なんです。
成人式で着る振袖といえば、普通、赤やピンクや青といった女の子らしいかわいくて明るい色が普通ではないでしょうか。
たまにシックな黒を選ぶ子もいるかもしれません。
ですが、母親が私に必死に勧めてきたその振袖は、なんと、なんとも言えない地味で渋い、とても二十歳の女の子が成人式で着るような色の振袖ではなかったのです。

しかも、一緒に来ていた母親の友人はその振袖を見て思わず「あらステキ!60歳になっても着れるわね!」と、トドメの一言を…。
しかし、母親は「この色の振袖を着こなせるのはあなたしかいない!」と、あなたにはこれしかない!と言わんばかりの勢いで強く勧めてきたのでした。
正直心の中では、こんな渋い色いやだな…と思いつつも、母親がこんなに必死に勧めてくることも珍しいので、「じゃあこれにする。」と、そのまま購入する事になりました。

最初はあまり乗り気でなかった私でしたが、何度か家で試着してみるうちに、その振袖の色の良さがじわじわと分かってきたり、
それに、確かに誰でも着こなせる色、デザインのものではないような気がして、自分の為だけの振袖のように思えてきたのでした。
そして、とても好きになりました。

写真館での前撮りの時も、担当の方が私の振袖に興味を示され、「なかなかない珍しい色の振袖ですね。よく似合ってますよ!」と褒めてくださいました。
きっと、成人式でも、同じような色合いの振袖を着ている子は1人もいなかったと思います。
ただ単に、レンタルで皆と同じような振袖を選ぶのではなく、私の顔立ちや身長なども考慮に入れて、私にぴったりの振袖を見つけ出し強く勧めてくれた母親に、今ではとても感謝しています。60歳になっても大切にしようかな。


複製画 販売

複製画 販売

複製画 通販